2020年11月6日金曜日

コーヒーブレイク 第28回 小説のクライマックスで知らない単語が出てきたら

このコーナーは赤木院長の個人的な趣味を綴ったものです。下手な文章にはご容赦。

伊岡瞬さんの「痣(あざ)」というミステリー小説の一部を赤木が台本化しています。主役の真壁刑事が相棒の宮下刑事と二人で連続殺人事件の真相を追い,ついに犯人のアジトの建物を突き止める,というシーンです。

 

ナレーション「建物の門には<森田運輸倉庫>という看板がかかっているが相当古くから廃業しているようだ。門から中を覗くが人の気配はない。例の建物の写真と見比べる。間違いなさそうだ」

宮下「どうしますか」

真壁「入る」

宮下「見つかったら?」

真壁「それはそのとき決める」

ナレーション「ゆっくりとドアを押し開ける。人の気配はない。何も物音は聞こえない。足元に注意して中に踏み込む。中は殺風景で物がほとんどない。床に積もったほこりが一部除かれているが,最近人が通った痕跡だろう。その先に筐体(キョウタイ)が三つ並んでいた・・・」

真壁(赤木)「すみません,カットお願いします」

とその時,真壁を演じていた赤木がカットをかける。

撮影監督「カット。どうしたの赤木ちゃん。せっかくクライマックスの緊迫シーンが上手に撮れていたっていうのに。中断しちゃ台無しでしょ」

宮下「そうですよ。撮影の時間もだいぶおしちゃってるんですから。早く終わらせたいですよ」

真壁(赤木)「ごめんね。だけど今知らない単語が出てきてさ。筐体(キョウタイ)ってなに?」

宮下「そんな分かんない単語が一つ出たくらい,分かったふりして素通りすればいいじゃないですか」

真壁(赤木)「いやそりゃ,テレビや映画なら肉眼で確認できるからいいよ。これって実際は小説読んでる僕が頭の中で想像してる世界でしょ。だからさ,単語の意味が分からないと映像化できなくて読書に集中できないんだよ」

宮下「だからって,いちいち中断してたらそれこそテンション保てないでしょ」

撮影監督「あーもう。辞書で調べるよ。なになに・・『機械や電気機器などを中に収めた箱のこと。』つまり今回の場合は箱型冷凍庫のことだな」

真壁(赤木)「分かりました。100%了解です」

撮影監督「それじゃあ,さっきのカットの部分から撮影再開します。前回撮影したところとうまくつなぎ合わせてください。赤木ちゃん,気分入れ替えてシリアスになってよ」

真壁(赤木)「100%了解です」

撮影監督「それと実際に小説読んでいる赤木さん,あなたも緊張した雰囲気を思い返して元の状態に戻ってくださいよ。じゃあ撮影いきます。よーい・・スタート」

ナレーション「二人は周囲に意識を配りながら三つ並んでいる筐体(キョウタイ)に近づいていった。そしてそのうちのひとつの扉をゆっくりと持ち上げ,中身を覗いた」

真壁・宮下「ギャ―――――-----

ナレーション「二人は恐怖のあまり悲鳴をあげるのであった」 (終)

このように小説のクライマックスで分からない単語が出てくるとテンションを保つのが大変だ,ということが言いたかったわけです。話の続きは実際の小説を読んで下さい。