このコーナーは皮膚病診療について独自の視点で解説します。
湿疹やアトピー性皮膚炎の治療に使われるステロイド外用剤ですが,約30年前にテレビや新聞で誤った報道がなされたために副作用の強い薬だとひどく勘違いされています。
1ステロイドを外用すると皮膚が黒くなる。
皮膚が黒くなるのは薬の副作用ではなく湿疹が重症であることに由来します。軽症であれば黒くなりません。むしろステロイドを外用して早く治した方が黒くなりにくいです。
2ステロイドを外用すると皮膚が薄くなる。確かに皮膚が薄くなる作用もありますが,湿疹は皮膚が分厚くなる病気ですので,皮膚を薄くして治療しているわけです。したがって湿疹病変に外用している限りでは問題ありません。普通の皮膚でもよほどでなければ心配いりません。
3ステロイドを広範囲に外用すると内臓に影響がある。外用されたステロイド成分は皮膚で吸収されてしまい血管内にはほとんどはいりません。よほどの例外を除けば内臓に影響はありません。
4ステロイド外用を中止するとリバウンドが起きる。それはリバウンドではなく,薬を中止することによる病気の悪化です。高血圧や糖尿病の薬を自己判断で中止すると脳卒中や高血糖症状を起こすのと同じ原理です。
上記に示した誤解は私にも理解できるのですが,中には特に理由もなく名前だけでステロイドが怖い薬と思われたり,医学知識のないおばあちゃんに「その薬だけはやめるように。」と忠告された症例もあります。
ではステロイドを使わず,時間がかかってもいいから非ステロイドで治療したいという考えはどうでしょうか?この場合湿疹やアトピー性皮膚炎が悪化して慢性化してしまう可能性があります。いったん慢性化してしまうと治りにくくなってしまいます。このことを私は「ステロイド外用剤を使わない事の副作用」と呼んでいます。これはステロイド外用剤の副作用で苦しむ人よりよほど重篤で数も多いと思っています。
さて最後になりますがステロイド外用剤の本当の副作用とはなんでしょうか?間違って使うととびひや,ニキビ,水虫など皮膚感染症をおこす事です。これにはやはり注意が必要です。例えば今まで虫刺されに対してステロイド外用剤が効いていたのにだんだんジュクジュクしてきて悪化した,というケースでは虫刺されがとびひになったものと考えられます。このような時には早めの受診をお願いします。